海外ロングトレイル山行:タスマニア・オーバーランドをテント泊で歩く

山行情報

期間 2019/1/9(水)~2019/1/17(木)
ランク C-C-8:00  参加者 10名
山行担当 CL 3036 SL 2782
記録担当:文責 3036 写真 3036

コース

1日目 ロニークリーク駐車場…イーグルヒル…マリオン展望台…ウォーターフォールバレーキャンプ場
2日目 キャンプ場…ウィル湖…ウィンダミア湖キャンプ場
3日目 キャンプ場…パインフォレスト・ムーア…ペリオンクリーク…ペリオンハットキャンプ場
4日目 キャンプ場…ダグラスクリーク…ドーリス山…オーサ山 山頂…パインストーンバレー…キアオラキャンプ場
5日目 キャンプ場…デュケーンハット…ファーガソン滝…ハートネット滝…デュケーンギャップ…ウィンディリッジキャンプ場
6日目 キャンプ場…パインバレー分岐…ナルシッサス桟橋…フェリー…セントクレア湖ビジターセンター

山行記

不思議な力で私達を魅了する国、オーストラリア。この国に惹かれるのは、世界のあちこちで地図を広げ、はるかな南半球に浮かぶこの謎めいた陸地の塊に想いを馳せる人々ばかりではありません。オーストラリアに住み、ゆっくり時間をかけて国内を探訪できる人々でさえ、自分達の巨大な裏庭はまだまだ本当の姿を見せ始めたばかりだと感じているようです。
オーストラリアをどれだけ旅しても、新たな旅の可能性が尽きることはありませんが、それは単に広いというだけではありません。オーストラリアはどんな旅行プランにも収まりきらない、時間の枠を超えた壮大な魅力を持つ国なのです。

シドニーのような街では人々は活気に満ち、内陸部に足を向ければ4WDの車体をガンガン突き上げるような悪路が待ち受けています。しかしそれも、ゆっくり静かに巻き起こるアウトバックの砂埃や、信じがたいほどに美しい夕陽の前にはただ沈黙してしまいます。真っ直ぐな道路があまりにも長く続き、どれだけスピードを上げようが前に進んでいないような錯覚を覚える場所もあります。けれども、どこにいても変わらないことがひとつだけあります。オーストラリアを旅する人はみな、不思議と同じことで迷ってしまうのです。最初にどこに行こうかと・・・そして、最初の旅が終わった途端に、次はどこに行こうかと・・・。

昨年の夏にウルル(エアーズロック)に登ったあとにも、やはり同じようなことを感じました。次はどこに行こうか・・・迷うことなくタスマニア島を選びました。
世界自然遺産に指定されているタスマニア原生地の最深部を歩く65kmのトレッキングルート・オーバーランドトラック。世界で最も素晴らしいトレイルのひとつという謳い文句は本当だろうか?
ボタングラスの草原にユーカリの木々、ゴンドワナ時代からの太古の森、そしてウォンバットやワラビーなどの野生動物、ここは毎日が見知らぬ動植物との出会いの連続-結論を先に言うと、パンフレットに書かれた謳い文句に嘘はありませんでした。

ルート図

出発点のロニークリークからウォーターフォールバレーまではひっそりとした小さな森を抜け、クレーター湖の側を登っていくと、すぐに森林限界を越えたような見通しの良い風景となります。まるで日本の山の稜線歩きのような開放感に参加者の笑顔がこぼれ落ちます。
小高い丘の上にあるマリオンズ展望台からは、眼下に穏やかなダブ湖、遠くには荒々しいクレイドルマウンテンが見渡せます。澄んだ空気が心地よくて思わず深呼吸。初日から申し分のない景色が私達を迎えてくれました。
遥か遠くまで広がる大自然。どこを見渡しても人工的なものは一つもありません。遥か昔、ゴンドワナ大陸から切り離され、氷河活動によって削られた山と大地が広がる、タスマニアの原風景が目の前にありました。

オーバーランドトラックではタスマニアでしか見られない様々な植物を見ることができます。その中でもパンダニは、タスマニアを代表する植物の一つです。ヤシやソテツの一種のように見えますが、実は世界で最も背の高いヒース科の植物です。大きて細長い葉っぱが垂れ下がるその姿は、江戸時代の火消しが用いた纏(まとい)という言葉が最も適しているような気がします。そんなパンダニがところどころに群生して、訪れる人に強烈な印象を与えます。

パンダニー

もうひとつ印象的だったのが、「クッションプラント」と呼ばれる緑のじゅうたんのような植物。見た目は苔のようで鮮やかな緑色で覆われています。その”苔“の上にまた別の小さな白い花が寄り添うように咲いていたりと、箱庭のような可愛らしさがありました。緑の絨毯のようにも見える植物は互いに寄り添って水分、熱、栄養を逃さないように生きているのだとか。軽く触れてみましたが、名前とは裏腹にクッションのような柔らかさはなく、硬かったのが印象的でした。

タスマニアの大自然にどっぷりつかれる贅沢な6日間。どこまでも続くタスマニアの原生地、見たことのない動植物との出会い、他のハイカーとの程よい距離感など、オーバーランドトラックは心に残るトレッキングのひとつとなりました。
この時期の日没は21時頃。日の暮れかかったタスマニアの森は一面ピンク色に染まります。この旅の終わりを告げられているようでどこか寂しい気持ちになりました。いつまでもここに居たい―参加者の誰もが同じ想いだったと思います。

到着

オーバーランドトラックを歩くことは”人生を変えるような経験”になるとタスマニア州国立公園のHPでは表現されていました。皆さんも時間を作って是非この6日間のトレイルに出掛けてみてください。それだけの価値は十二分にあります。
私が訪れた世界のトレイルは10ヶ所以上、歩いた総距離は5000kmを超えましたが、きっとこれからも世界のトレイルを歩き続けることと思います。