岩へのお誘い

岩場で怖い思いをしたのでもっと安心して通過したい、近場の岩場やクライミングジムでフリークライミングを楽しんでみたい、これからアルパインクライミングをやってみたい―など「岩」に関心がある方へ、会で行う学習山行やゲレンデ自主トレ、アルパインクライミングについて紹介します。

過去の岩山行の山行記はこちらをご覧ください。

1.学習山行

(1)鷹取山三点支持

山行安全部が主催し、主に岩沢世話役会のメンバーがコーチを担当。毎月1回湘南鷹取山で実施しています。2017年度は77名の会員が受講しました。講習内容は、登山靴を履いたまま岩場の登りでのホールドの持ち方や立ち方、姿勢、重心の移動(体重移動)、手足の動かし方、下りでの姿勢や体の動かし方などをテキストによる理論と実践で学びます。また簡単なロープの結び方や、岩稜帯でロープを張って安全を確保し上り下りの訓練を行います。初めて日本アルプスなどを縦走したい方は必修です。

ザックを背負って上り下り

(2)幕岩教室

岩沢世話役会が主催し、毎年10月~11月にかけて5日間訓練を行います。2017年度の第19期は18名(定員は10名)の受講者を2班に分けて実施しました。1回につきリーダー9名がつきました。岩の入門コースであり、修了後は沢教室・リード講習会・MRTなどを経て、沢登りやフリークライミング、アルパインクライミングなど希望分野に進んで更なるレベルアップを目指すこともできます。

学習内容は

・クライミング装備一式(ヘルメット、ハーネス、ヌンチャク、クライミングシューズ、カラビナ、スリングなど)を購入し、正しい使い方を学びます。

・安全確保技術であるトップロープのビレイの仕方を重点に、登る技術やロワーダウン、懸垂下降などの訓練を行ないます。

・岩場は鷹取山、広沢寺弁天岩、湯河原幕岩など場所を変えて実施します。

○受講者の声

・クライミングの楽しさにはまった。同期会を作り定期的に室内ジムで練習している。自主トレにも積極的に参加するようになった。

・沢登りをやりたいと思っていたので受講してよかった。

・縦走での岩場の通過に自信がついた。

幕岩教室は50歳代の方の受講も多く、将来指導者としての活躍が期待されます。

幕岩教室の様子

(3)リードクライミング講習会

第9期リードクライミング講習会は昨年12月に受講者8名で3日間行われました。リーダーは各回とも5名がつきました。受講資格はトップロープでグレード(難易度)5.9を登れることです。

受講内容は

・リードのビレイ訓練。トップロープのビレイと比べて、リードの動きに合わせてロープ操作をする必要があり、より高度な技術を要するので、はじめはトップロープで安全を確保してビレイの練習をします。

・リードで登るときのクリップの仕方と体勢の練習。

・終了点でのロープの結び替えとロワーダウンや懸垂下降の練習。

・場所は1回目を室内ジム、2回目広沢寺弁天岩、3回目は湯河原幕岩で行いました。

○受講者の声

・MRTを受講してロープワークを覚えたい、安全に登りたい、沢登りで役立つようにしたいなど。

(4)MRT(マルチピッチロープワークトレーニング)

2017年度も2月末から6名の受講者を集めて5回に分けて実施しています。訓練は受講者1名に対しコーチ1名の1:1で行っています。MRTはマルチピッチクライミングの訓練であり、アルパインクライミングのみならずマルチピッチフリークライミングにも対応しています。ロープ1本の長さでは登りきれない高さの壁を、複数にピッチを切り、リードとフォローを繰り返して登っていくクライミングです。

受講資格は外岩5.7をリードできることです。

受講内容は

・装備はダブルロープ他、クライミング装備一式を使用します。

・岩壁でピッチを切ることに関連して生じるいろいろなロープ操作、ビレイ、アンカーの作り方などと、終了点からの下降の訓練を行います。頭で理解しただけでは不十分で、実際に岩の上でスピーディに行えることが必要です。

・1回目は鷹取山の平地でロープワークの訓練を行い、2回目は傾斜の緩い幕岩悟空スラブで、3、4回目は広沢寺弁天岩で、最終回はアルパインクライミングに近い城山の西南カンテで行います。

・はじめは難しいピッチはコーチがリードして、易しいピッチは受講生が登るようにしています。

広沢寺弁天岩でのマルチピッチクライミング

(5)岩場のセルフレスキュー訓練

2017年度も昨年11月に31人の受講者とコーチで行いました。クライミング中に墜落したり、落石を受けて動けなくなったりした事故者を長時間岩壁に宙吊りのままにしておくわけにはいきません。事故者を速やかに安定した場所へ移動させるための訓練です。

訓練内容は

①宙づりからの自己脱出とビレイヤーの自己脱出

・懸垂下降中にトラブルが発生したとき、仮固定してビレイから自己脱出して登り返す。

・ビレイ中にトラブルが発生したとき、ビレイヤーがビレイから自己脱出して行動できるようにする。

仮固定からの自己脱出

②事故者を引き上げ・吊り下ろす

・フォローがクライミング中に落石等でトラブルが発生したとき、事故者をビレイ器のロックを解除して吊り下ろす方法。

・3分の1システム・6分の1システムで事故者を引き上げる方法。

③リードが滑落して負傷したときの救助方法

・Wロープを使用してリードがロープの半分以上を登攀中に滑落負傷した場合、ビレイヤーがカウンタークライミングにより、事故のリードを下す。

④セルフレスキューに必要なロープワーク

・仮固定(ミュールノット)他

一度ではマスターできないので繰り返し受講し、自宅での復習も必要です。

 

2.フリークライミング

フリークライミングは、使う道具はクライミングシューズだけで、その他はすべて安全確保のための道具です。岩だけを手がかりにして登り、登るために道具は使いません。乾いてしっかりした岩を対象に行います。

(1)3種類の登り方

①トップロープのクライミング

主に練習用に用いられるシステム。終了点にロープを掛けて、その一方をクライマーが結び、もう一方をビレイヤーが確保します。常に上から確保された状態なのでフォールを気にすることなく、登ることのみに集中できます。鷹取山三点支持や幕岩教室はすべてトップロープで練習します。

②リードクライミング

二人一組で行い、ビレイヤーがリードの登りに応じてロープを送り出したり取り込んだりして、フォールしたら確保器を使って、ロープをストップさせます。リードはプロテクションにクイックドローを使ってロープを通しながら登り、フォールした場合は一番近いプロテクションにぶら下がることになります。ビレイ技術もクライミング技術もかなりの経験を要します。

③ボルダリング

低い岩で飛び降りることが可能な場所で行うクライミングです。地面にマットを敷いて、登っていない人がスポッター(できる限り危険を軽減させる役)となることがあります。室内ジムでは一人で練習できるメリットがあります。

 

(2)会山行のゲレンデ自主トレーニング

幕岩教室修了以上を対象とした山行とリードやマルチピッチ修了者を対象とした山行が、月2回程度計画されています。岩場は、湯河原幕岩、広沢寺弁天岩、鷹取山、城山、三つ峠、つづら岩、越沢バットレスなどがあります。今年の1月に行われた湯河原幕岩自主トレーニングは新年会も兼ねて行われ、30人が参加しました。最近の自主トレの傾向として幕岩教室18期、19期の方が多く参加し、リーダーが対応に追われている状況です。新人の方も、少しずつトップロープの支点の作り方を覚えるようにして自分たちで練習できるようにしましょう。

幕岩での自主トレの様子

(3)フリークライミング愛好家について

クライミングは週1回の練習では現状維持、2回以上やらないと上達しないと言われています。クライミングの好きな方は、会山行とは別に毎週曜日を決めて定期的に練習しています。

・大鷹会=毎週火曜日に鷹取山南面で行われています。南面には8本ほどのルートがあります。垂直の壁なのでなかなか難しく5.11のルートもありますが、何回も挑戦しているうちに登れるようになります。無事故で10年ほど続いています。

・水曜サロン=毎週水曜日に主に鷹取山の学校フェースの壁で行われています。和やかな雰囲気の中でクライミングを楽しんでいます。初心者に登り方(ムーブ)を丁寧に指導しています。こちらも10年以上継続して無事故です。

・平日クラブ=毎週木曜日に毎回岩場を変えて、トップロープだけでなくリードやマルチピッチのクライミングの練習もしています。

・室内ジム=毎週平日の勤務終了後に集まり、クライミングジムで練習しています。

・クラッククライミングを中心に練習している集まりもあります。

・ガイド講習会=会員の中にはトップロープの講習会やリードの講習会に参加してレベルアップを図っている方もいます。

以上のように毎週どこかで50名以上の方がクライミングを楽しんでいます。

 

3.アルパインクライミング

フリークライミングに対して、山岳地帯で行われるクライミング全般をアルパインクライミングと呼んでいます。落石や雪崩の危険、濡れた岩場など自然条件の厳しい中で、どのように対処できるかを試されます。天候急変、ルートの見つけにくさなど、登る技術より経験を要することもあります。当会で毎年計画されている無雪期の主なアルパインクライミングについて紹介します。

 

(1)谷川岳一ノ倉沢南稜

一ノ倉沢などの谷川岳の岩場は、その険しさから剱岳・穂高岳とともに日本三大岩場の一つに数えられアルパインクライミングのメッカとされています。そのなかで最も人気が高いのが、入門ルートの烏帽子沢奥壁南稜です。一ノ倉沢出合から6月は雪渓を詰めてテールリッジ取付きまで、テールリッジを登りきったところが衝立岩中央稜の取り付きで、そこからさらにトラバースして南稜テラスへ。南稜は一ノ倉沢のほぼ中央に位置するリッジのために周囲の展望もよく、岩も固く、落石の危険も少ない。ルートは6ピッチ、フェース、リッジ、チムニーと変化に富んでいます。終了点からは懸垂で下降ができますが、そのまま一ノ倉岳を目指し国境稜線へ抜けたほうが谷川岳の大きさを知ることができて充実感があります。

一ノ倉沢南稜

(2)滝谷ドーム中央稜

北穂高岳の西側に鋭く切れ落ちた岩場が滝谷。その中の登攀ルートの1本がドーム中央稜で、最も人気が高く、岩も比較的しっかりしています。一番の魅力は3000m雲上のアルプスでのクライミングが楽しめることです。当会では10年以上前から毎年山行が計画されています。ドーム中央稜へのアプローチは縦走路から第三尾根を経由して懸垂下降、バンドをトラバースして取付きへ行きます。登攀ルートはクラック、チムニー、フェース、カンテ等、多彩で楽しめます。クライミング力としては、Ⅴ級をリードできることが必要です。また、上高地から北穂小屋まで15kg以上の荷物を背負って約8~9時間を登るので体力も必要です。

滝谷ドーム中央稜

(3)北岳バットレス第四尾根主稜

日本第2位の高峰、3193mの北岳東面に展開する約600mの高度差を誇る大岩壁バットレス。そのバットレスでもっともよく登られているのが、日本のクラッシックルートを代表する1本の第四尾根。アルパインの入門ルートとして人気が高く、休日は取付きで混みます。2010年の第四尾根枯れ木のテラスの崩壊後しばらく登られていませんでしたが、岩も安定したことにより会山行として2015年から再開しました。

大樺沢左俣の登山道からC沢とD沢の中間尾根から、落石の危険の少ない第五尾根支稜に取り付き下部岸壁を抜け、横断バンドをトラバースしてCガリーの右岸を登り取り付きへ。ルートは途中マッチ箱の頭で20m懸垂下降、9ピッチで終了点。そこからは踏みあとをたどり縦走路に出てすぐに北岳頂上に出ます。アルパインクライミングとして是非登ってみたい1本です。

北岳バットレス2ピッチ目

 

4.岩と安全

岩での事故を教訓にして、安全に登るためにどうしたら良いかまとめました。

(1)ビレイ技術

岩を安全に登るためには、安全確保技術とクライミング技術どちらも不可欠なものですが、先ずは安全確保技術を習得する必要があります。ビレイがしっかりできるようになってから引き受けてください。頼むほうもビレイができることを確認してから依頼すべきでしょう。

(2)リードクライミング

リードクライミングはクライマー、ビレイヤーともにかなりの経験を要します。トップロープでクライミングの基本技術を習得し、能力を高めてからリードの練習を始めるべきです。最初のリードクライミングはやさしいルートで練習し、トップロープで余裕をもって登れるようになってからリードクライミングの練習をしましょう。事故防止のためにヘルメットの装着は必須です。難しいグレードのルートに挑戦する場合は、プリクリップして安全を確保する、他の人にスポッターになってもらう、などして登るべきでしょう。

(3)うっかりミス・不注意によるケガ

岩でのうっかりミス・不注意によるミスは、大きな事故になることがあります。

会では登り始めのとき、登攀中、ビレイ点、懸垂下降時に、自分の安全だけではなく相手の安全を確認する相互の安全確認を徹底するようにしています。

(4)アルパインクライミング

自然環境の厳しいアルパインクライミングにおいて、支点などは錆びたりして、安全が保障されたものではありません。常に叩いたり、引っ張ったりして大丈夫かどうか確認して、不安がある場合はハーケンを打ち直したり、別のものを使用したりする必要があります。

(5)自己責任について

クライミングは危険を伴うスポーツであり、完全な安全を求める人はクライミングを行うべきではありません。その危険性を承知した者だけが行うことのできる自己責任のスポーツです。

どこまでの危険性を受け入れるのか、トップロープまでのクライミングにとどめておくのか、リードやアルパインクライミングまで行うのかを仲間や指導者の意見もよく聞き、家族の同意を得て、最後は自己責任で決めるべきでしょう。

(6)もしもに備えて山岳保険

クライミングを行う場合は、賠償責任・捜索費用・救援費用が出る山岳保険に加入しましょう。JROは遭難のみに特化した保険なので、賠償責任のある保険に加入することも必要です。

 

岩にはいろいろな楽しみ方があります。近くにクライミングジムも増えてきました。スポーツとしてのクライミングを楽しんでみたい方や、登山道から離れ、いつかはバリエーションルートを登ってみたいと思っている方、岩沢の各教室に入会して岩を始めてみませんか。