チンネ左稜線

登っているピナクルの向こうに今回の核心が待っている。左手岩峰はクレオパトラニードル。

山行情報

日時:2022/08/11 ~ 2022/08/13 天候:晴れ~曇り~霧~雨~晴れ
ランク:D-D-11:00  参加:4
山行担当:CL3256 SL3420
記録担当:文責:3224 写真:3256,3420,3224,3418

コースタイム

8/11 室堂 8:15-熊ノ岩幕営地 16:50
8/12 幕営地 4:00-池ノ谷乗越 4:55-三ノ窓 5:40-チンネ左稜線取付き 6:30-チンネの頭 13:00-池ノ谷乗越 15:00-幕営地 16:00
8/13 幕営地 5:30-室堂 13:55 

山行記

はじめに

剣岳チンネ左稜線。その存在を意識したのは4年前北方稜線を歩いた時だった。登山路の途中で立ち寄った三ノ窓からチンネを望み、あの鋭い岸壁を登ったみろくの先輩がいると知った。その時から憧れを抱いていたルートに遂に挑戦する日がやって来た。 

1日目

熊ノ岩へのアプローチ 

テント装備やクライミング装備で18キロになったザックをゆすりあげ室堂からスタート。 

まずは別山乗越迄の登りが難関だ。今回は直登を避け新室堂乗越経由で登る。これが大正解。チングルマのお花畑に癒されつつ徐々に高度を上げて行けたため、重いザックを担ぎながらも何とか平常心を保ちながら無事到着。剣岳の雄姿を眺め続いては下り途中立ち寄った剣沢キャンプ場にある山岳警備隊で長次郎谷の雪渓やチンネの状態を確認する。貴重な情報を頂き、剣沢雪渓へ。まだまだ下りが続く。

平蔵谷の先で源次郎尾根取付きの状態を見つつ通過し長次郎谷の入口でアイゼン装着。いよいよ本日の最難関である熊ノ岩への雪渓が始まる。疲労した身体に重いザックを背負いつつ徐々に急になる雪渓にピッケルを差しながら慎重に登る。途中クレバスが激しくなった雪渓を避けスラブ状の岩場を登ると熊ノ岩の上にテント発見。

しかしこれからが長かった。まだかまだかと焦る心と戦いながら何とか熊ノ岩到着。既に10張位のテントがひしめき合うように張られている。しかしSLが奥に良いテント場を発見。ほっとしつつ無事1日目が終了した。 

 



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2日目

チンネ左稜線登攀 

2時半起床、4時出発。未だ真っ暗な中ヘッデンを頼りに雪渓を更に登る。もう少し明るくなるのを待ちたかったが、前日の聞き取りで数パーティが同ルートを狙っていることがわかり、少しでも早く取り付きへ向かう必要が出たからだ。既に先行するパーティのヘッデンが見える。

池ノ谷乗越手前では、地面がむき出しになっている箇所もあり、難易度が増している。しかし、暗闇の中CL,  SLの的確なルーファイのお蔭で無事乗越着。池ノ谷ガリーを下り回り込むと三ノ窓だ。チンネが良く見える。既に2パーティが取り付きにいる。急峻なシュルンドをトラバースし私達が取り付きに着く頃には先行パーティも上がり、いよいよ登攀開始。 

 1pはA氏がリード。右のフレークより左側のフェースに登りやすいルートがあったとのこと。2pは私のリード。急なフェースから始まるがホールドが豊かでステップも取りやすい。落ち着いてスタート出来た。その後も少々ルーファイに悩みながら順調につるべでピッチを上げていく。後続のT氏U氏のパーティも順調に登って来ている。

6p辺りのフェースに取付いた際、徐々に濃くなった霧に代わり雨が降り出した。しかし未だ岩が乾いている内にと更に登攀を続ける。幸いフリクションはしっかりしており怖くはない。降ったり止んだりを繰り返す雨と共に登りながら核心となるT5に到着。

先行パーティが苦戦しており、その後にもうひとつパーティ待っている。しばし待機しつつA氏に登り方のレクチャーを受ける。ランナーが豊富なのが頼りだが、あまりヌンチャクを使い過ぎると支点到着迄に無くなってしまう心配もある長いルートだ。あれこれ考えながらいよいよリード開始。まずはカンテ添いにランナーを取りながら下部のハングを通過。

いよいよ鼻と言われる上部ハングだ。ハング真下にランナーを取り、ハング上部に右手を伸ばすと、T氏に言われたガバ発見。その先にフレークが右上している。強度を確認した上で徐々に身体を上げて行き、確実なステップを確認し、左足で乗り込んだ所でハング超え終了。

やったー!と思いつつこの先はルーファイが難しいセクションに突入。ランナーが近い箇所はヌンチャクを回収しながら慎重に進み、遂にピナクル到着。続いて登って来たA氏にナイスリードと声を掛けて頂きとても嬉しかった。やがて後続のU氏も到着。二人とも初めての核心リードを無事終えることが出来た。

喜びもつかのま、この先は霧の中にピナクルが点在してみえる。ルーファイが難しくランナーも少ないルートだ。アップダウンを繰り返し3ピッチ。A氏が笑顔で迎えてくれる。チンネの頭に到着したのだ。その途端、いままで纏わりついていた霧が突然開け出し、周りの山々登って来たルートが見えるようになった。チンネのご褒美に歓喜を上げている所にT氏U氏パーティも到着。喜びを分かち合った。 

続いて2回の懸垂を経て池ノ谷ガリー上部到着。乗越から最後の難関である雪渓下りが始まる。ここで落ちてはなるものかと、アイゼンをしっかり雪に食い込ませながら慎重に下る。最後まで気が抜けない雪渓を降下し、無事テン場着。長い1日を感謝で終了。 



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3日目

室堂までの下山 

4時起床5時半出発。下山とは言え、本日は登りも多い。疲れた身体に最後のムチをいれつつまずは長次郎谷を下る。上部程の迫力は無いが、気の抜けない雪渓を下りきると、今度は剣沢雪渓が始まる。傾斜は緩いが長い雪渓をふうふう言いながら登っていく。思ったより早く雪渓は終わったが、そこから剣沢小屋までがとても長く感じ辛かった。

剣沢キャンプ場で一息入れ、次は室堂乗越までの登り。息も荒くなり歩も進まないと感じつつも順調なコースタイムで到着出来た。ここからは行きと同じくお花畑に癒されながら雷鳥沢まで下山。いよいよ最後の難関?室堂までの登りを残すのみとなった。最後が近づくにつれ早く終わって欲しいと思う反面、終わってしまうのかと思うと少し寂しくなってくる。

そして遂に室堂に無事到着。4人でがっちり握手を交わした時は感無量で泣きそうになる。終わった。本当に終わった。皆さんありがとうございました。 

素晴らしいアルパインクライミングを満喫しました。 

【CL追記】 

この山行記を書いてくれたS氏と2019年にチンネ左稜線をやりに行ったが、早い時間の天気が良くなく、八ツ峰上半に転進をしたことがあった。今回、登攀途中で2回の雨に降られ、撤退が脳裏を過ったが天気予報を信じた。結果、チンネの頭に付いた時にはガスが晴れて後立山連峰、富山湾、八ツ峰と絶景が見渡せた。3年越しの彼女の思いが叶い、4人で完登し成功となった。 

チンネ左稜線の登攀自体は難しくはない。しかし、ルーファイ、ピナクルを使ってのランナーの取り方、ロープの流れ等を考えての登攀、アイゼンを履いての雪渓の上り下り。ここをやるには総合力が必要だ。又、熊ノ岩まで行くのが一苦労。しかし、あの岩場に立った時には回りの景色に圧倒され、思わずため息が出るほど見惚れてしまう。 

機会があれば是非、熊ノ岩からの景色を見てもらいたい。こんな場所があるのか・・・と、飽きる事は無いだろう。 



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