2度目のJMT(ジョン・ミューア・トレイル)

ジョン・ミューア・トレイル

山行情報

日時:2023/08/07 ~ 2023/08/17 天候:概ね晴れ
ランク:- 参加:3名
山行担当:CL3205 SL3271
記録担当:文責:3205, 3271, 3630 写真:3205, 3271, 3630

コースマップ

加藤則芳著「ジョン・ミューア・トレイルを行く」[平凡社]から転載させていただきました

山行記

1日目

8月7日。羽田-サンフランシスコ-Mammoth Lake到着

2度めのビショップ空港までの空旅。去年はコロナ禍の中、空港のレストランも閑散とする中、マスクをしながらの長い空旅。今回はコロナも弱まり、マスクなしの機内でのびのびと過ごす。サンフラン空港のトランジットも慣れたもの。去年はロストバゲッジを恐れて、テント他大切なものは機内持ち込みにした。今年は慣れていたのだが……。

ビショップ空港到着後、荷物が手作業で飛行機から出されて「荷物置き場」に並ぶ。

2人のザックは無事到着。でも一番大切なテントを入れた私のバックが最後まで出てこない。「ロストバゲッジ!!!」。空港スタッフに問い合わせてみると「良かったですね。まだサンフラン空港にあります。どこか遠くに運ばれていると厄介ですが、明日の便では恐らく届くでしょう」と笑顔で回答。うううん、日本の航空会社だったら何と言うのかなあ?



2日目

8月8日。サンフランシスコからの飛行機の到着が2時頃。その間、航空会社に何度も問い合わせるが「恐らく、今日の便に乗っていると思います」との回答のみ。もし今日乗っていなければ、いつ?テントを現地で買うの?寝袋他、自分のスタッフ、食糧は?????

仲間2人は、明日の登山口の下見にReds Meadowに行くが、自分はホテルでひたすら荷物を待つ。3時頃、無事到着。航空会社からのお詫びのレターも言葉もなく、届けてくれたタクシーのドライバーは「おめでとう!!」とハイタッチをする状況。うううん、日本の航空会社だったら何というのかなあ?でも、明日予定通り出発できるから乾杯!



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3日目

8月9日。山行開始1日目/Mammoth Lake~Reds Meadow~Deer creek

いよいよ今日からロングトレイルのスタートである。登山口から高度を徐々に上げていくと、雪渓を抱いた雄大な山々が現れた。登山道には色とりどりの花々が咲き、リスたちが駆け回っている。再びJMTに戻ってきたのだ、と頬がゆるむ。すれ違うハイカー同士「ハーイ、元気?」「どこから来てどこまで行くの?」「楽しんでね」と、声をかけ合う。そして、私たちのルート上10日目の鉄製の橋が崩落しているとの情報が…。出国前から懸念はしていたが、衝撃である。今年の現地の冬は異常に雪が多く、橋が何カ所か崩落しているのだが、日本では場所が特定できていなかったのだ。

渡渉してきたというハイカーは身長約190cm、「腿くらいの水量で怖かった」。他のハイカーは渡れなくて迂回したと言っていた。迂回すると更に4日間かかり、また迂回しないでピストンで戻っても、帰国の飛行機には間に合わない。どうするか。5日目にコテージを予約しているので、そこで情報を集めて最終的に判断することにした。

足をとめて写真を撮っていると、すごい数の蚊が群がってきてシャツやスパッツの上からも刺して来る。日本の蚊の2倍の大きさで、痒みも強烈だ。慌てて防虫ネットを被り、Deet100%(日本の許可基準は30%以下)の虫よけスプレーをジャバジャバかけたが、少し経つとまた集まってきて不快極まりない。そしてこの後何日も、蚊に悩まされることになった。

15時、渓流沿いにテントを張る。ここから半日以上水場がないため、ほとんどのハイカー達がここで幕営していた。といっても10数張程度。夜、アメリカ人男性2人組が焚火に招待してくれた。全行程を2週間で歩くとのこと。彼らも渡渉を心配していて、迂回するかもしれないと言っていた。どうか無事に渡れますように。



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4日目

8月10日。山行開始2日目/Deer Creek~Lake Vergina

7時出発に合わせて起床。昨晩は蚊に悩まされたが、就寝前にテント内の蚊は退治できたので思いのほか眠ることができた。出発のころには蚊は姿を現さなかったが、少し気温が上がると、あっという間に防虫ネットを被らないと歩けないくらい。今日もつらい一日のようだ。3時間ほど歩き林間コースを抜けると、これから向かう山々の稜線が目に映ってきた。昨年のトレイルの景色も素晴らしかったが、昨年以上に山々の広がるスケールの大きさに驚いた。

景色を楽しみながらゆるい登りを進んでいく。今日は高度差700mほどを登らなくてはならない。低山での700mはそれほどでもないが、約2600mからのアップは中々厳しい。4時間ほど歩きクリークのそばで昼食休憩を取っていたところ、かわいらしいラマ5頭を連れた親と娘が登場。ロバばかりでなくラマも荷運びに活躍しているのだと知った。砂漠のラクダの山岳版だ。

休憩を摂り、再スタートして1時間くらい歩いたところでまた休んでいると、福井県から来たカップルに遭遇。われわれがこれから行くVermillion Valley Resortからの帰りとのこと。渡渉ポイントなどルートの情報をいろいろと教えていただいた。

その後、Duck Pass Trailの分岐を過ぎPurple Lakeに到着。今回のルートでも湖に映える山々が美しい。一息ついて、最後のキツイ九十九折りの今日一番の登りに入る。本山行に来る直前の薬師岳縦走の疲れが残っていたのか、本当にバテてしまった。何とか登り切り、Lake Virginiaに15時過ぎに到着。誰もいない湖畔にテントを設営。周りを見渡すと、鹿島槍のような双児峰や湖に映った景色が素晴らしかったし、日没時にはアーベントロートも見られた。今日の歩行時間は約8時間、15㎞であった。



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5日目

8月11日。山行開始3日目/Lake Vergina ~Silver Pass Lake

ちょっと肌寒い朝。誰もいないテント場でゆっくり食事。さあ歩くぞ!と靴紐をしっかり締めて5分後、なんと「渡渉」!さっき履いたばかりの靴をザックに縛りつけて、湖の周りを2度ほど渡る。水が冷たい!その後も素晴らしい景色の中をどんどん上がる。今日の最高地点はSilver Pass(約3,270m)。今回全ルートの中のハイライトの一つだ。どんよりとした曇りの中、まずは最初の雪渓。ここはチェーンスパイクを使わずに慎重に登る。

しばらくゆくと湖と山々が織りなす絶景の中ながら、景色を楽しむことなく、とにかくSilver Passを探しながら登る。あれがSilver Passか?こっちがSilver Passか?なかなか峠らしきものが見当たらない。すると目の前に幅広く、急な雪渓が現れる。そこを頂上からお尻で楽しく滑りながら下りてきたアメリカ人に思わず「Silver Passはどこ?」と聞くと、「あの雪渓のてっぺん!」との回答。彼の友達はお尻で滑らず、ちゃんと歩いて下りている。

その登山道(雪渓)をわれわれも慎重に歩きながら、Silver Passの頂上へ。そこから見れる360度の大パノラマ。「天気が良かったら最高だね」と言いながら、別の雪渓を下りながらSilver Pass Lakeに到着。再度、誰もいない広い場所にわれわれだけの寝場所を設営。高度のせいか蚊は一切おらず、今回の山行で最も気持ちの良い夜を迎えた。 



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6日目

8月12日。山行開始4日目/Silver Pass Lake~VVR

蚊がいないので、外でゆっくりコーヒーを飲んで9時に出発。今日の核心は、地図では手ごわそうに見える渡渉2か所。着いてみると、1か所目は川幅約6mで飛び石の上まで増水している。靴を脱いで飛び石から落ちないように、慎重に渡った。2か所目は靴のまま対岸の岩に飛び移る作戦。最初に渡ったメンバーが、スリップしてあわや!危なかったが無事渡渉。私も後に続くが、どの岩もヌルヌルと滑り、怖くて蹴りこめない。手を貸してもらい、やっと渡った。

夕方、大きな湖の対岸にあるコテージに行くために、フェリーに乗る。たなびく星条旗、映画に出てくるような陽気な髭のキャプテン。アメリカだなぁ。コテージ脇のテント場に、雷鳴の中、急いでテントを張った。その後、土砂降りになった。

ルートを変更し引き返すことを、3人で決めた。テント場で会った年配の女性は、「戻る時は景色が違って見えるから、それもまたいいものよ」と、気遣ってくれた。この女性は、JMTを2回も完歩している強者。素敵な方だった。



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7日目

8月13日。山行開始5日目/VVR Stay

本日は、VVR到着2日目。今日はキャビ料理されたものを食べられると、意気込んで注文。これがいけなかった。少し小さめのテーブルではあったが、3人分の料理がかろうじて乗るくらいのボリューム。ブリトーは直径10cm×20cm。オムレツセットは1.5㎝の厚さ×25㎝のが一人2枚ついてきた。とても日本人に食べきれる量ではない。横を見ると平気で平らげている人がいたが、しっかり太っていてその理由がよく分かった。

おなか一杯になったあと、テントを干したりウェアの洗濯をしたりしてのんびりと過ごした。午後にはキャビンに移動し、シャワーや夕食を摂って疲れを癒した。



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8日目

8月14日。山行開始6日目/VVR~Mono Creek

午後4時のフェリーに乗ってピストンの帰路をスタートする。それまではVVRでのんびり。しばらく食べられないであろう、ハンバーガーやフライドポテトとビールでリッチな昼食。

最初の幕営地は、フェリー乗り場から1時間ほどの近い場所。 地図を頼りに川を挟んだ反対側までちょっと遠回りしてみると、素晴らしく広いテント場が広がっていた。勿論テン場にはわれわれだけ。まとわりつく蚊を除けば。



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9日目

8月15日。山行開始7日目/Mono Creek~Silver Pass Lake

今日も渡渉や雪渓があり、まだまだ気が抜けない。滑りそうになった所は靴を脱いで渡り、雪渓もシリセードはやめて、慎重にチェーンスパイクで下りた。相変わらず群青色の空の下、雄大な山々や湖がどこまでも広がっている。どこを見ても「絵」になるので、思わず何回も立ち止まって写真を撮りたくなってしまう。

再びSilver Pass Lake脇にテントを張った。標高3300m、蚊がいないので快適。この夜は割合暖かく、ホカロンを張らなくても眠ることができた。



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10日目

8月16日。山行開始8日目/Silver Pass Lake~Lake Virginia

朝7時出発。昨夜は雨と強烈な風がテントを叩いていたので心配していたが、朝には何とか収まってくれ、青空が広がってきていた。まずはSilver Passへの登り。来るときに通った雪渓を通過したが、雪が少し解けたのか前回よりも歩きやすかった。Silver Passに着くと快晴の空のもと、そそり立つ山容とそれを映す湖や氷河が広がり、今回の山行中で最高の景色を楽しんだ。

Squaw Lakeを通過しFish Creek Footbridgeに到着。鉄製の橋の下を激流が流れていて涼風が心地いい。だがここからはまたまた600mのキツイ登り。しかし、少し身体が慣れてきたのか、最初の時のようにはバテなかった。13時頃にはLake Virginiaがようやく見えてきたが、先日通った渡渉ポイントで再度靴を脱ぐ。短時間だが、水の中を歩いていると痺れてきて、水温は前回よりも低いのではと感じた。渡渉を終えてすぐそばのLake Virginia湖畔で2度目のテントを張った。この日は食事の際に雨に苛まれて、テント内で摂ることになった。



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11日目

8月17日。山行開始9日目La/ke Virginia~Mammoth Lake

いよいよ最終日。Lake Virginiaのテン場をスタートして、ひたすら下りの道。往路にも通ったPurple Lakeでひと休み。「ここでアメリカ人と写真を撮ったのが、8日前か?」と感慨に浸る。その後JMTを離れてDuck Pass Trailに向かう。Duck Lakeまでは結構な登り。それを超えると、壮大なDuck Lakeが現れる。その半分程を周回する形で歩く。青空と、湖と遠くに見える山と雪渓と……。「山行の最後にこんなご褒美が待っているとは!」とみな大感激。

何枚写真を撮っても撮り足りない景色。そこに現れたのが、馬に乗ったきれいなアメリカ人女性。まるで映画のよう。その後は、多くの湖の間を抜けて、終点地であるLake Maryのバス停に到着。そこから無料の周遊バスに乗って、われわれの第二の故郷であるMammoth Lakeのテント場まで戻る。

周遊バスから見る景色が素晴らしい。それもそのはず、ここから見える山々は3千メートル越え。ヨセミテに行くまでの明日から2日は、この周辺を日帰りトレッキングを楽しむことに決めて、われわれを待つMammoth Lakeのテン場に向かったのでした。おしまい。

◆終わりに

2度目のJMT。前回は4人の山行であったが、今年はメンバーの一人の都合がつかず、3名での山行となった。ロストバゲッジ、橋の崩落によるルートの大幅変更(ビショップパスまでの縦走予定が、VVRとのピストンに変更)、連日の巨大蚊の襲来、半袖歩きからチェーンスパイク装着までの幅広い天気、ラマや西部劇に出てくるようなカウガールとの出会い、モーターボートで送迎のビレッジ宿泊(VVR)、昨年より圧倒的に多い残雪の山々……。去年とは違うJMTを堪能できた。 

ルート変更により、時間の余裕もできたため、Mammoth Lake周辺の日帰りハイク、ヨセミテ観光も十分楽しめた山行だった。



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