ネパール遠征・アイランドピーク(6,189m)/中編(ディンボチェ~カラパタール~チュクン)

前編(カトマンズ~ルクラ~ディンボチェ)はこちら
後編(チュクン~アイランドピーク~カトマンズ)はこちら

ついにカラパタール(5,550m)に登頂!左奥の雲を発生させている黒いピークがエベレスト

山行情報

日時:2024/04/21 ~ 2024/04/25 天候:概ね晴れ
ランク:D-D-16:00  参加:4名
山行担当:CL3632 SL3748
記録担当:文責:3632, 3748, 3063, 3418 写真:3632, 3748, 3063, 3418

コースタイム

4/15~5/2(18日間) 行動時間:110時間24分 距離:146.2㎞ 累計標高差:+10,469m/-10,344m 各日のコースタイムは本文に記載

コースマップ

山行記

9日目/4月21日

ディンボチェ(4,350m)7:15…14:00 ロブチェ(4,910m) 歩行時間:6時間45分 +812m/-108m

朝目覚めると高山病の前兆(頭重感)があり、朝夕に半錠ずつ飲んでいた高山病予防薬ダイアモックスを1錠に増やした。他のメンバーは半錠を服用しているが、CLは未だ飲んでいない。6時に朝食を取り、7時15分にディンボチェのムーンライトロッジを発った。まずは、昨日登ったナンカルトシャンピーク(5,083m)から続く、尾根上にストゥーパ(仏塔)が立つ峠を目指した。この峠にはトレッカーやポーターが荷物を置きやすいように石垣が組んであり、一息つく人々で混み合っていた。

峠を越え、昼食予定地のトクラ(4,620m)を目指す。しばらくロブチェ川対岸に聳えるタブチェ(6,495m)を眺めながら歩いていると、「河原にBC(ベースキャンプ)を設置し、ガレ場を慎重に氷瀑までアプローチしてアイスクライミング。氷瀑を登り切ったら、右のルンゼをクライミングで広場まで登り、アバランチシュートを避けてC1を設置する。ここまで3日かかるかな…」等々の妄想が湧いてくる。凄く魅力的な山だ。パンボチェ(3,930m)から見た時に、見た目が不細工で、取るに足らない山だと思ったことをタブチェに謝りたかった。

ランチ予定のトクラに10時頃到着。目的地のロブチェまでロッジが無いため、早めにランチをすることにしたが、未だお腹が空かず軽めのメニューにした。昼食後、エベレストから流れ出るクンブ氷河の右岸に出るためトクラ峠を目指す。この辺りの標高になると、物流の主役はゾッキョから、毛足が長く寒さに強いヤクになるようだ。ヤクは希少で高価なため、各ロッジのメニューにあるヤクステーキはバッファローの肉を使っていることは公然の秘密だ。

トクラ峠を越えクンブ氷河沿いにロブチェを目指すが、目の前にエベレストから連なる中国との国境線を形成する連山のひとつ、プモリ(7,165m)が徐々に迫って来る。プモリの雪に覆われたピラミッド形状が美しい。 

13時10分ごろにロブチェに到着したが、ガイドが何故か集落を素通りしたので確認すると、宿はもう少し先とのこと。さらに歩くこと50分でようやく泊地に到着。実はロブチェではなく、ピラミッド(4,970m)という地名のロッジに泊まるとのこと。ピラミッド唯一のロッジだが、案内された部屋は、外ドアから出入りするタコ部屋だった。粗末な2段ベッドの4人部屋とツインベッドの2人部屋の接続部屋だが、両部屋ともポーターに運んでもらったダッフルバッグを置くと身動きできないほど狭い。「今日は泊り客が多いので外部の2人が相部屋だ」と平然と言うガイドに腹が立ち、「お前はツアー条件を守る気あんのか!」と心の中で怒鳴りながらロッジと交渉させた結果、4人部屋と2人部屋は我々4人で専有できることになった。しかし、夜中にトイレに行った際、ダイニングを通ると何人かがマグロのように床に寝ていた。多分ガイド達だと思うが罪悪感が…。

朝は不調だったが、ゆっくり歩いたせいか気分が良くなったので、就寝前のダイアモックス服用は半錠に戻した。(文責:3748)



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10日目/4月22日

ロブチェ(4,910m)6:15…11:30カラパタール(5,550m)12:00…13:10ゴラクシェプ(5,140m) 歩行時間:6時間55分 +812m/-622m

今日はエベレスト街道トレッキングの最高到達点、カラパタールを目指す。標高5,000m越えに備え、ダイアモックス服用を1錠に増やす。流石のCLも、昨夜からダイアモックス半錠を飲み始めたようだ。早めの6時15分に出発し、まずは泊地のゴラクシェプ(5,140m)を目指し、プモリ(7,165m)を正面に見ながら、クンブ氷河の右岸を歩いた。氷河の対岸にはヌプツェ(7,864m)が、エベレスト(8,848m)を隠す屏風の様に立ちはだかる。タイミング良くヌプツェのピークに日が昇り、ダイヤモンド・ヌプツェを眺めながら休憩した。

8時45分にカラパタール直下の泊地ゴラクシェプに到着したが、一旦お茶だけに立寄る。出発から2時間半の行動時間にもかかわらず、メンバーには疲労の色が見える。普段のこのメンバーからは考えられない。ナンカルトシャンピーク(5,083m)で5,000m越えを体験した時よりもきつく感じる。しかし、CLがいつもと全く変わらないのには呆れてしまう。

カラパタールまで残りの標高差は410mで、月例Cのペースなら1時間ちょっとで登れるのだが、トレッキングガイドによると「ここからがキツイ」とのこと。ロッジを出て急登に差し掛かる手前の平地にはヘリポートがあり、ヘリコプターが頻繁に飛んでいる。カラパタールに登るトレッカーが高山病になり搬送されるためとのこと。ヘリポートを見ると搬送待ちの列ができていて、自分もあの仲間にならないようにと願った。

急登に差し掛かるとさらにきつくなり、ガイドから「鼻で呼吸をするように」と再三注意される。少しでも息があがりそうになると気持ちが悪くなるので、一歩一歩が止まる寸前のスローペースだ。そんななか、熊のプーさんのような見た目と明るい性格のガイドに癒される。また、ヌプツェの氷雪の着いた岩壁を見ていると、登るルートを妄想してしまい、しばし辛さを忘れる。妄想ルート上には何か所か雪氷の塊が崩落して、雪崩に巻き込まれそうな箇所がいくつかあった。まさにそんな時に雪崩が起き、その瞬間をCLのカメラが捉えた。

カラパタールの頂上が間近になってくると、遥か眼下の氷河沿いにテントが点在するエベレストベースキャンプが見えた。相当数のエベレスト登山隊がいるようだ。ようやく11時30分にカラパタール頂上に着いた。ゴラクシェプから月例Cのペースなら1時間程度の標高差を、2時間20分かけて登った。しかもザックの重量は5Kg以下だ。まだ、アイランドピーク登山に向けた高度順応の段階だが、最初の難関をクリアして、4人全員が登頂できたことを喜び合った。

エベレスト街道沿いからはヌプツェからローツェ(8,516m)に連なる稜線がエベレストを隠すように立ちはだかっていたが、ここはエベレストが最も良く見える場所だ。雲を発生させている黒いピークがエベレストで、周りの白いピークとは一線を画し威容を放つ。ジェットストリームに近い標高のため雪が吹き飛んでいるせいか、西側斜面に雪がほとんど着いていない。

行動食を食べたりして頂上に30分程度滞在し、クンブ氷河の右岸を泊地ゴラクシェプ目指して下山する。下から風が吹き上げて来て粉塵が酷いが、ウイルス対策用のマスクをすると息が苦しくて高山病リスクが高まる。しかたなく、目の粗いフェイスガードでマスクの代用をする。

13時10分に泊地ゴラクシェプのロッジに到着したが、全員が過酷な環境(高所、乾燥、粉塵)に疲労の色が隠せない。流石のCLにも少し疲れが見える。全員、鼻と喉の粘膜をやられてティッシュの消費が凄い。

クライミングガイド(シェルパ族)が今晩から合流した。アイランドピーク登山の概略を聞くと、アイランドピーク・ベースキャンプ(5,080m)から直接登頂するとのこと。旅行会社の旅行条件書では、ベースキャンプからハイキャンプ1泊を経て登頂することになっている、とクライミングガイドに伝え、また我々の方でも彼の案について確認・検討することとした。クライミングガイドが言うには、BCから直接登頂するのが近年では一般的らしい。

トレッキングガイドは、旅行会社からアイランドピーク登山を含むトレッキング全般を請け負っているはずであるが、クライミングガイドの方は、旅行会社からアイランドピーク登山を請け負っているため統括する人間がいない。我々の担当窓口は空港に迎えに来た旅行会社の社員だが、なんとも頼りないので、トレッキングガイドとクライミングガイドそれぞれと我々の考えとをすり合わせ、齟齬があれば旅行会社社長と電話でやりとりする他にない。

アイランドピーク登山に向けた高度順応トレーニングも兼ねたカラパタール・ハイキングの仕上げは今晩の宿泊だ。起きている時よりも寝ている時の方が高山病を発症するリスクが高い。ゴラクシェプの宿泊で大丈夫ならば、アイランドピーク・ベースキャンプでのテント泊も大丈夫なはずだ。明日の朝に結果が出る。

※クライミングガイドは、チュクン~アイランドピーク・ベースキャンプ~アイランドピーク登頂をサポートするガイド。トレッキングガイドは、ルクラ~カラパタールのエベレスト街道をサポートするガイド。(文責:3748)



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11日目/4月23日

ゴラクシェプ(5,140m)7:15…14:10ディンボチェ(4,350m) 歩行時間:6時間55分 +163m/-1,009m

昨夜は咳が止まらず、殆ど眠れなかったが体調はそれほど悪くない。朝食時には全メンバーとも体調は悪くないとのことで、高度順応はうまくいったようだ。今日は7時15分にゴラクシェプ(5,140m)を発ち、往路と同じルートをディンボチェまで戻る。相変わらず朝のうちは快晴だ。

歩き始めて30分ぐらいすると、自分も含めメンバーの体調が優れないことが発覚し、「ビスタ~リ、ビスタ~リ(ネパール語でゆっくり、という意味)」を心掛けて歩く。往路と同様のルートをゆっくりと下るため、周りに目を向ける余裕が出て来て、行き交うポーター達の超人ぶりに目を見張る。信じられないような荷物を背負って歩いている。我々をサポートするポーター達も一見瘦せっぽちに見えるが、40Kg以上を担いで、月例Cのペースよりも早く歩く。

ロブチェの集落をすぎてゴキョーに至る分岐で、チョラ峠を越えるルートに思いを馳せる。ゆるい下りなので体力的には楽だが、粉塵混じりの乾いた風が痛めた喉と鼻に辛い。

トクラ峠(4,620m)を越え、往路と同じロッジでランチをとるが食欲があまり無く、頼んだエッグ・フライドライスを半分も食べることができなかった。ランチ後にロブチェ川左岸を下るが、ナンカルトシャンピーク尾根筋のストゥーパを見て、泊地ディンボチェのロッジまであとわずかだと安堵した。

14時10分にロッジに到着するが、全メンバーともに体調が優れない。喉や鼻の粘膜を痛めて、咳・痰・鼻水・鼻血・発熱など、各人に色々な症状が出ていた。ロッジのオーナーに喉飴を買える店を尋ねたら、日本のトローチに相当するイギリス製の薬、ストレプシルをくれた。舐めてみると喉の痛みが和らいだので、追加購入したいとガイドに尋ねたら、8個入りのパッケージ(600ルピー)を全員分買ってきてくれた。

夕食前のミーティングで、明日は体調回復のためにディンボチェで停滞することを決定し、アイランドピーク登頂予備日を2日から1日に減らす日程変更をガイドと合意した。その後、ストレプシルを追加購入しようと近所の店に出かけ、粘って値引き交渉をしたが1パッケージあたり800ルピーが750ルピーまでにしか下がらず、改めて外国人向け価格を認識した。(文責:3748)



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12日目/4月24日(調整日)

ディンボチェ(4,350m)

昨夜も咳が止まらず、殆ど眠れなかった。ストレプシル(英国製トローチ)のお陰で喉の痛みは消えたが、咳が止まらない。同室のCLも一晩中咳をしていたが、睡眠は十分だと言う。不思議だ。今日は睡眠で体力を回復したり、近場の店をのぞいてのんびりしたりと、各人思い思いに過ごして休養したが、私はこの空き時間を使って、チュクン(4,730m)で合流するクライミングガイド達とのミーティング用フリップを作った。

全員が元気をとりもどしたようなので、夕食前のミーティングでフリップを使って我々のアイランドピーク登山の方針を確認した。今回の遠征は、1年前から出発までに4回のミーティングを重ねていたが、今回のミーティングが一番白熱した。今までのミーティングでは出なかったような生々しい本音も出て、お互いのわだかまりも無くなり有意義なミーティングになった。

また、今日が懸案だったクライミングガイド増員(2名➡3名)のオーダー期限。増員1名につき300ドル。4人全員がアイランドピーク登山に参加可能見通しのため、増員を決定してガイドに伝えた。チーフクライミングガイドは、増員に備えてロッジに泊まっているガイド達に声を掛けていたらしく、即座に増員するクライミングガイド(シェルパ族)を我々に紹介した。

今晩も咳が止まらず眠れない夜を過ごしたが、CLが咳にもかかわらず寝不足にならない秘密を知ってしまった。私の場合は寝ていて咳き込むと20分ぐらいは寝つけないが、CLは咳き込んだ2秒後に鼾をかき始めた。「ごほっ、ごほっ、ごほっ!… ぐぅ~」という感じだ。真の岳人の恐ろしさを垣間見た。(文責:3748)



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13日目/4月25日

ディンボチェ(4,350m)8:00…10:35チュクン(4,730m) 歩行時間:2時間35分  +457m/-14m

昨日の休養で全員の体調が好転したので、チュクンに向けて出発。いよいよアイランドピーク登山に向けた行程になるが、今日は距離が短いため8時に出発。イムジャ川の右岸を長閑な田園風景に癒されながら暫く歩いてから振り返ると、ディンボチェの集落が見え、私のお気に入りのタブチェ(6,495m)が「Good Luck!」と言っているように思えた。

長閑な風景の先に小山のように見えるのがアイランドピークだ。すぐ左に聳えるローツェ(8,516m)と比べると、なんとも小さく見えて簡単に登れそうに思えてくる。ヌプツェ氷河から流れ出る綺麗な川を渡渉したり、ヤクの母仔に癒されたりしながら歩く。アイランドピーク登山に向かう緊張感とは無縁のウォーキングだ。しかし、チュクンが近づくにつれてアイランドピークが眼前に迫ってくると、登山が段々と現実味を帯びてくる。アイランドピークの山容も明らかになり「簡単に登れそうだなんて思ってゴメンなさい!」と心の中でアイランドピークに謝った。

10時35分に今日宿泊するロッジ「サンライズ・エコ・リゾート」に到着。大層な名前だが、ここの主人はやり手で、アイランドピークBCとHCも経営しているとのこと。旅行会社の社長とここの主人は古くからの付き合いで、いろいろと融通が利くらしい。通された部屋も広く綺麗だった。

宿で3人目のクライミングガイド(シェルパ族)が合流した。彼はアイランドピーク登山のガイドを10回以上経験していて、コミュニケーションも良く頼りになりそうだ。すぐに3人のガイドによるクライミング装備のチェックが行われ、全員が問題なくパスした。

その後、チーフクライミングガイドから行程の説明があり、HC(ハイキャンプ)経由で頂上に向かうとのこと。旅行条件書に従うことにしたようだ。BC(ベースキャンプ)から直接頂上に登る場合は、登高標高差が1,109mあり、体力的に厳しい。ただ、HCを経由する場合は、HC(5,600m)のテント泊により、高山病リスクが高まるデメリットがある。結局のところ、どちらのリスクを取るかという問題だ。私としては標高差1,109mの登り下りは自信がないので、HC経由の行程に決まり安堵した。

HC経由の行程となったため、懸案だったBCからHCへの個人装備荷揚げポーター追加依頼の必要性が出てきた。旅行条件書ではBCからHCへのシュラフ、スリーピングマット、ピッケル、クランポン、クライミングギア、高所登山靴などの個人装備荷揚げは各自となっているが、体力温存のため追加のポーターを3名雇うことにした。荷揚げと荷下ろしで100ドル/人。

夕食前のミーティングで、トレッキングガイドとクライミングガイド3名を交えてアイランドピーク登山ミーティングを行おうとしたが、クライミングガイドの一人が先行してBCに行ってしまっているため、登山ミーティングはBCで行うこととした。(文責:3748)



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