3. 三浦アルプスの登山道:遭難事故を防ぐために

更新:2023.12.05

  • 登山道の特徴・注意点
  • 道標整備状況
  • 道迷いポイント

登山道の特徴・注意点

1.道迷い事故が後を絶ちません

三浦アルプスでは年間数件の遭難事故が発生しています。二子山山系自然保護協議会が公開している「二子山山系における事故等発生状況(2023年9月末現在)」をもとに集計すると、過去10年間(2014.1~2023.9)で消防・警察による救助活動が行なわれた事故は合計57件、そのうちの3分の2(37件)は道迷い事故が占めています。低山だからと軽く見て、軽いハイキングのつもりで、下調べもせず、地図も持たずに入山する人が多いことがその大きな原因と考えられます。過剰に恐れる必要はありませんが、以下に記したことをよく踏まえたうえで準備万端整えて、この魅力あふれる三浦アルプスの山歩きを楽しんで頂きたいと思います。

(グラフをクリックすると新しいページに拡大表示されます)

二子山山系における遭難事例発生件数 (二子山山系自然保護協議会のFB公開資料より作成)

二子山山系における遭難事例発生件数 (二子山山系自然保護協議会のFB公開資料より作成)

2.道標のない分岐が至るところにあります

次の「道標整備状況」の項に書くように、道標のない分岐が至るところにあります。地図とコンパス、GPSは必携品です。

3.国土地理院の地図には登山道が示されていません

国土地理院の地図には、昔の生活道で今は廃道となって使われていない道は未だに一部線が残っていますが、登山道はほとんど示されていません。スマートフォンのGPS機能を使う場合、Geographicaの様な地理院地図を背景地図として使うアプリでは、地図上に登山道が示されていないので、事前にルートを書き込んでおかないといざという時に慌てることになります。

4.尾根道はアップダウンが激しい

良く調べないで手軽なハイキングコースのつもりでこの山域に入ってくる人の大部分がこの感想を抱いて帰り道に着きます。コース取りにもよりますが、5~6時間のコースでも、累積標高差は1,000m近くになることがあります。

5.雨後は非常に滑りやすい道となります。登山計画は余裕を持って

三浦アルプスの登山道は、多くが泥岩、頁岩で形成されており、ひとたび雨が降ると溶けた粘土状の非常に滑りやすい道と化します。そのため、尾根道の傾斜の急なところや、深い谷間の斜面に設けられた細い道など、転倒、滑落の事故を起こしやすい場所が至るところに出現します。そんなところには殆どトラロープが設置され、また、注意深く歩を進めれば問題なく通行できますが、歩行時間は想像以上にかかります。晴天続きの日の歩行時間に比べると、5割増しから倍近くかかるところがザラにあり、予定時間をはるかにオーバーするということもあり得ますので、計画時に頭に入れておく必要があります。

6.倒木、そして土砂崩れ

三浦アルプスの山域は、岩盤上に形成された表層土が薄く、樹木は深く根を張ることが出来ないところが非常に多いため、大雨が続いたり強風が吹き荒れた後で大小の倒木がよく発生します。また、急傾斜地では土砂崩れが数年に一度は発生しています。こんな気象条件の後の山行では事前の下調べが必須です。また、こんな状況から登山道維持のための補修活動が欠かせないところですが、行政やNPOが整備を行うのは次項に記した官製の道標が設置された道に限られ、ほとんどの登山道は、地域の個人のボランティア活動によって維持されています。普段なにげなく歩いている山道も、こういった人たちの陰の努力があってこそ、という気持ちを忘れないようにしましょう。また、体力に余裕のある人は、手鋸をザックの中に忍ばせ、ちょっとした倒木や道を阻む枝を切って歩くだけでも、登山道の維持に大きく役立ちます。

7.尾根道は殆どが樹林の中

低山ですから、尾根道はほとんどが樹林の中をあることになります。フィトンチッドは十分に吸収できますが、山の頂上を除いて眺望は殆どありません。このことは地図読みが難しい、ということを意味します。その代り、時折、登山道わきの樹木が土壌とともに崩れ落ちて思わぬ眺望が現れるところにふっと出くわすことがあります。こんなところでは、予期せぬご褒美をもらった気分で、疲れが吹き飛んでしまいます。

8.沢は大部分登山靴で歩けます

主要な沢は、森戸川源流部の中沢と南沢、そして、大沢谷の沢で、いずれの沢にも、沢沿いに山道が通っています。こちらを歩くのも良いのですが、沢床歩きもお勧めです。余程の大雨の後を除けば水量が少ないため、沢靴でなくても大部分のルートを歩き通すことが出来、この地域特有の美しいナメ床、ナメ滝を楽しむことが出来ます。ナメ滝と言っても、傾斜の緩やかな落差高々1mの滝です。あまり人が入らない支沢に行けば別ですが、主沢には登攀用具を必要とするような大きな落差の滝や崖はありません。ところどころ、倒木や深い水溜りに行く手を阻まれることがありますが、こんな時は、巻き道ルートを探すか、最悪、元に戻ればよいのです。もっとも、ある程度の経験が必要なことは勿論のことで、初級者は必ず経験者に同行して貰って下さい。

9.ちょっと奥に入ると、ジャングル

「細密度」が高い地形が幸いして、ちょっと奥に入ると、ジャングルの中の様なワイルド雰囲気が味わえるところがあります。例えば、南尾根から谷沢尾根に入り、これを下った沢の部分がそうです。深い谷のため湿度が年中高く、シダが生い茂っており、まさにジャングルそのものです。ただ、こういったルートも、登山道があるといっても道が細くて滑りやすく、おまけに崩壊しているようなところもあるので、初級者同士の入域は危険です。

10.トイレはありません

例外として仙元山頂上に一つありますが、使うのが躊躇われるほど汚れています。

11.イノシシ出没注意・括り罠に注意

数年前からこの里山にイノシシが出没するようになりました。「葉山わな狩猟の会」資料によると、イノシシは次のような習性を持っているそうです。
・ 本来は昼行性だが、警戒心が強いため、夜間に行動する。
・ オスは単独生活しメスはコドモと生活。1才を越すと親元を離れコドモ同士のグループを作る。
・ 草食系雑食のため、動物の死骸や昆虫、カエルやヘビも食べる。
イノシシ駆除のために括り罠が山中に仕掛けられています。登山道を歩く限り問題はありませんが、登山道から離れて藪ルートを歩く場合、罠を踏んでしまったり、罠にかかっているイノシシに遭遇したり可能性があります。罠にかかってもイノシシはある程度自由に動けるので、遭遇した場合突然襲い掛かってくる可能性があります。藪ルートでは注意が必要です。

道標整備状況

三浦アルプスの登山道で道標の設置されているルートは次に限られます。

1.逗子市自然回廊プロジェクトで整備された山道:
〇 二子山回廊(JR東逗子駅~馬頭観音(北尾根)・上二子山)
〇 長柄桜山古墳回廊(六代御前・富士見橋~蘆花記念公園・(旧)郷土資料館~長柄桜山古墳群)
2.葉山町の定めたハイキングコース
〇 仙元山ハイキングコース(葉山小学校横~実教寺~仙元山~葉山教会下)
〇 三ヶ岡ハイキングコース
3.二子山山系自然保護協議会が設置した道標
〇 FK1・FK2・FK3標識:特に道迷いが多い分岐として定めた東尾根3か所
〇 ダイワハウス道標:不動橋~畠山~南尾根のルートに計19か所

これら以外の登山路には基本的には道標はありませんが、これを補う形で地元のボランティアや団体が設置した手作り道標が随所に見られます。迷いやすいと思われるところはある程度網羅されていますが、必ずしも完全なわけではなく、また、道標自体の耐久性もそれほど期待できるわけではありません。こういった事情をよく知らないで、道標頼りに山に入ってくる人も良く見かけます。道迷いの原因となりますので、地図とコンパス、GPSは必ずもって山に入る様にしましょう。

道標以外には逗子市と葉山町の消防本部がそれぞれの管内に設置した消防標識があります。本来は火災発見時の通報を目的として設置されたものですが、三浦アルプスの登山道ほぼ全域がカバーされていますので、登山者が現在位置を知る目印になり得ます。各標識の位置は、下記の団体が地図を作ってネット上に公開しています。どちらも無償でダウンロード可能です。

〇 二子山山系自然保護協議会:「二子山山系主要分岐図」 ダウンロードは→こちら
〇 葉山・山楽会:「消防標識および道標位置図」     ダウンロードは→こちら

道迷いポイント

森戸川源流域で道に迷いやすいポイント

本図の背景地図は国土基盤情報(国土地理院)を使用して作成した。

二子山山系自然保護協議会の「二子山山系主要分岐図」の中で道迷いエリアとして区域指定された森戸川源流域の中で道に迷いやすいポイントを以下に解説します(以下の文章は筆者が葉山・山楽会の「葉山の山歩きコース」に執筆したものを編集し直したうえ加筆修正して掲載しています)。

森戸川源流域で道に迷いやすいポイント

【南尾根ルート】

南尾根は概ね道標が完備されているので、道迷いの要素は比較的少ないが、それでもうっかりしていると迷い込みやすいいくつかのポイントがある。

1. 葉山消防標識30、31 のピーク、および大桜
これらのピークには、いずれも南沢に下る藪ルートの入り口があり、その踏み跡がしっかりとつけられている。余りに立派な踏み跡なので、一見普通の登山道と見分けがつかない。中でも30番、31番のピークでは登山道がそこから折れ曲がって急降下しているため(西から東に向かう場合)、それが目に入る前に藪ルートの立派な道が目に入り、ついそちらの方に迷い込みやすい。入り口は立派でも、行くうちに踏み跡は段々と薄れていき挙句は藪の中に突入することになる。いまは注意喚起の札が樹に掛けられており、また、入り口には枯れ木を積んでバリケードとしているため、迷い込むことはあまりないと思われるが、枯れ木が雨風で曖昧になってしまうこともあるので、気をつけて通過するようにしたい。

これらピーク以外にも、随所に藪ルートの入り口がある。殆どが、踏み跡程度のもので登山道とは判別可能であるが、一応注意しておきたい。

2. 県道横須賀葉山線に下りる枝道
南尾根から県道横須賀葉山線に下るルートで、登山道としてはっきりしているものは、道標D19(一色方面)道標D17(新沢方面)D13と12(栗坪方面)、およびD10(上山口方面)を起点とする4本のルートである。尾根道を歩いていると、これら以外にも下りる踏み跡が何か所かあるのに気が付くが、入り口付近では道がはっきりしている様でも、先に進むにつれて倒木が処理されていないとか、崩落箇所があったりとかする可能性があるので、藪ルートの経験が十分にない場合は立ち入らないようにするのが無難である。その中の一つとして、 葉山消防33番標識のあるピークから次の32番標識(栗坪の頭分岐点)との中間点辺りで道が右方向直角に折れ曲がる(西から東に向かう場合)ところがある。ここを曲がらずに直進すると栗坪方面への旧道に入るが直ぐに荒れ果てた藪道になる。入り口に枯れ木を積んでバリケードとしているが、嵐の後で吹き飛んでしまったりすると、真っ直ぐ突き進んでしまう可能性もあるので、注意が必要である。

【中尾根ルート(森戸川林道終点~乳頭山)】
中尾根ルートにおける道迷いポイントは2か所だけである。

1. 六杷峠(中沢からの道と南沢からの道が合流する十字路)
2. 辻の峰(斜め十字路;中沢からの道と南沢からの道が少し距離を置いて合流する。連続した二つのT字路)

これら二つの十字路( あるいはT字路) は、きれいな形で直角に交差する十字路ではなく、曲がりくねった細い山道が、登り下りの途中で立体的、かつ斜め方向に交わっている様な十字路なので、何も考えないで歩いていると、尾根道を真っ直ぐ行ったつもりが実は沢の方に下りる道を進んでいた、ということが起こりやすい。分岐道では前後左右をよく観察して、どの道が尾根道で、どの道が沢に下る道かを良く見極めて歩くことが肝要である。

これら二つの峠は、どこの峠でもそうであるように、尾根道の鞍部に位置している。ということは尾根をそのまま進みたい場合は、峠に下った後、登る方向に進めばよいわけである。道が入り組んでいるとしても、こんなことを頭に入れておけば、迷う確率は少なくなる筈である。

なお、辻の峰から南沢に下る道には右側に「ぬままひがし4」の消防標識が樹にかかっているのでこれも覚えておくとよい。

【中沢ルート(森戸川林道終点~東尾根)】
中沢ルートにおける道迷いポイントは以下の通り(林道終点から沢の上流方向に歩く場合)。

1. 中尾根六杷峠への分岐(下記2の数メートル手前)
2. 北尾根馬頭観音への分岐
3. 中尾根辻の峰方面と東尾根方面への分かれ道(逗子消防標識「なかさわ11」地点)
4. 沢渡渉点(特に、逗子消防標識「なかさわ7」地点)

これらの分岐は、ほぼ平坦な場所で道幅も広く、杉林の中とは言え比較的開けた場所にあるので、中尾根コースの十字路のような分かり難さはない。

上記1、2 の分岐ははっきりしたT字路になっているので、東尾根方面に行く場合は直進すればよい。3の分岐は少し判断に迷い勝ちであるが、東尾根に出て沼間方面や東逗子方面へ行く場合は左折する。右に行く道(中尾根辻の峰方面)は、現時点(令和3年2月)では道が比較的荒れており、ある程度のルートファインディング技術を持った経験者向けのルートである。1 の分岐から中尾根六杷峠に登るルートも同様である。

ただし、2 の分岐から北尾根馬頭観音へ登る道は、途中障害物もなく、安心して歩ける道である。

以上の分岐のほかにこのルートには、いくつかの渡渉ポイントがある。場合によっては、台風や大雨の影響で倒木が発生し、渡渉後の対岸の取り付きが見つけにくい場合がある。こんな場合には慌てずに周辺をよく観察して、ポイントを見つけ出すことが必要である。六杷峠分岐の5分ほど手前、逗子消防標識「なかさわ7」近くの渡渉点がその代表的な例である。ここから先にも道は続いているので、以前はその先に渡渉点があったと思われるが、現時点では、令和元年秋の台風による倒木が未処理のまま残っており、ルートを探すのが難しくなっている。今は消防標識「なかさわ7」の直ぐ先で渡渉するのが一番簡単なようである。

【南沢ルート(森戸川林道終点~三国峠)】
1. 中尾根六杷峠への分岐
2. 中尾根辻の峰への分岐
3. 沢分岐、特に消防標識「みなみさわ」14と16の間

上記1,2 の分岐は中沢ルートの分岐と異なり、登山道が比較的急な斜面の中腹に付けられており、道も真っ直ぐでなく、しかも、冬季を除いて周辺には草も茂っており、分かり難い分岐となっている。以下の説明は、林道終点から沢の上流方向に歩く場合を想定している。

1の分岐は、道の流れから行くと、峠から下ってくる支沢にぶつかったところで、昔の生活道をそのままなぞって左に曲がり、六杷峠に登って行くようになっている。南沢ルートをそのまま遡行したい場合は、支沢(沢幅約1m)の先に「みなみさわ8」の消防標識が樹にかかっており、その右側に道が見えるのでこちらを行く。夏は草やシダが生い茂って見つけにくいかもしれないので注意。2の分岐は、辻の峰(斜め十字路)から下ってくる支沢(これも沢幅は狭い)を渡ったところにあるT字路状になった分岐である。左(こちらには「ぬままひがし6」の消防標識が見える)に行くと辻の峰に行く。南沢を遡行する場合は右が正解である。なお、六杷峠や辻の峰に向かうルートは、中沢からのルート同様かなり道が荒れており、ここを登る場合は相応の経験が必要である。

さらに、南沢も後半部を過ぎると、岸に付けられた登山道も途絶え、沢の中を歩く様になる。左右から流れ込んでくる支沢の中には、傾斜が緩やかで、沢幅も広くどちらが本流か判断が付きかねる様な沢がある。こういった場合も、コンパスと読図だけでは難しいことが多いので、初めての場合は、嗅覚に頼るだけでなく、GPSで確認しながら行く習慣をつけるのが良い(10m間隔の等高線では支沢は現地を目で見た程にははっきり表現されないので注意)。

【南沢と中沢の連絡ルート】
南沢と中沢間の連絡ルートは、中尾根の六杷峠を通るルートと辻の峰(斜め十字路)を通るルートの二つのルートがあるが、どれも谷間を通るルートであるために、倒木や部分崩落の被害を受けやすく荒れていることが多い。下りルートを採る場合は比較的迷うことも少ないが、登りルートの場合は、支沢分岐で判断に迷うことがある。また、沢から離脱して山道に登るポイントが雨後の崩落により分かり難くなっていることがある。初めて通る場合は、特にコンパスと地図、GPSが必携である。

【FK1~FK3ポイント】
これら3つのポイントは、初心者コースの中でも特に迷いやすいポイントとして二子山山系自然保護協議会が道標を設置している。何も考えずに不用意に通過すると思わぬ方向に進むことがあるので、注意したい。

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