マッターホルンとヨーロッパアルプス山行記(後編)
後半の日程表
日程 | 行程 |
26~27① | 26 シャモニーからツェルマットに車で移動後、ヘルンリ小屋へ。ヘルンリ小屋泊 27 マッターホルンに登頂、その日のうちに下山してシャモニーに戻る |
26~27② | 26 シャモニーからスタファルに車で移動後、グニフェッティ小屋へ。グニフェッティ小屋泊 27 モンテローザに登頂、その日のうちに下山してシャモニーに戻る |
28 | インデックスの隣の岩場でマルチピッチ |
29 | ゲレンデで岩登りトレーニング |
30 | バスでジュネーブへ移動。ドーハ経由で成田へ |
31 | 成田国際空港に到着 |
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6.マッターホルン(Matterhorn) 8月26日(金)~ 27日(土) 快晴
マッターホルンの地図
マッターホルン登攀ルート
8月26日
朝、いつものようにアパート前に集合。車2台に分乗してマーティニ経由でツェルマットに向かう。途中、タクシーに乗り換え、ゴンドラリフト駅からリフトを乗りついでシュバルツゼーに到着した。
シュバルツゼーからヘルンリ小屋まで2時間のところ、1時間半で歩いた。
明日のアタックに備えて、MIさんの通訳でガイドから説明を受ける。防寒具、飲み物、軽食をリュックサックに入れて、それ以外はケースに入れて棚に入れること。ガイドのデューゴが歯ブラシはもっていくなとジョークを飛ばす。明日は5時に地元のガイドが出発するので、彼に続いて出れるように出口の近くに陣取るよう指示があった。
小屋の食事は、スープはおいしかったが他はまあまあ。ガイドたちはワインを飲んでいたが、明日のアタックを考えると心臓がバクバクでお酒を飲む余裕がない。
ヘルンリ小屋は前日、後日は60組のクライマーが滞在するらしいが、本日は25組。ラッキーとしか言いようがない。昨年改築されたそうで近代的になっていた。部屋は2段ベットの6人部屋。私たち女子3名以外はフランス人の男性3名。部屋が暑いことや鼾などで眠れない夜を過ごした。
8月27日
3時半起床。すべてを準備して食堂に集合した。パンと飲み物の軽い朝食を済ませ、地元のガイドの動きをみる。
4時50分、地元のガイドが動き出したのをみてさっとデューゴが動く。出口付近で彼とロープを結び、ヘッドランプで出発。外に出た時点ですでに10組以上が歩き出していた。取り付きのフィックスロープを過ぎると、デューゴがどんどん飛ばして遅れ気味な組を抜かしていく。ついていくのがやっと。しかし1時間も経つと呼吸が整ってきた。
6時50分ソルベイ小屋到着。ソルベイ小屋を過ぎると、休憩を取っている3組を抜いて高度を稼ぐ。私はシャモニーでハイドレーションを購入したのでリュックを下さなくても給水ができる。
このあたりから傾斜がきつくなり、太いフィックスロープも続いて出てきた。そして雪田が出てきたと思ったら、デューゴから「crampon on!」の号令。アイゼンを装着して休む間もなく、息を切らせながらフィックスロープを使って登り続けた。
それでもデューゴがイタリア組を追い越すので、すれ違いざまに彼らに「I’m tired」と小さい声でいうと、「Lady, everybody’s tired」と言って押してくれた。ぜいぜい言いながらデューゴについていくとそこはサミットだった。
「やったー!」。8時5分。なんと3時間15分で登ったことになる。写真を撮ったりして10分ほどクリスたちを待ったが到着しないので、下り始めると彼らがやってきた。全員で写真を撮り、即下山開始。
下りは昨日練習した「lean back」、ロアーダウンだ。デューゴは急傾斜な箇所にくると「豚のシッポ」にロープをかけ、ロアーダウンで下してくれる。スタカット、コンテと見事なロープさばきでどんどん下山した。途中、「疲れた?」と聞かれたので、「日本で15時間の訓練山行をしてきたからそうでもないわ」と強がって見せた。ヘルンリ小屋には11時30分に到着した。
ヘルンリ小屋のテラスで、ガイドに完登の御礼にささやかなチップを渡し、「マッターホルン・ディシュ」のボリューミィなランチを食べ、後続のチームを待った。
そしてシュバァルツゼーからゴンドラリフトを乗り継いでツェルマットに下りた。
ツェルマットのバーでは、シャンペンでマッターホルン完登の祝杯をあげた。(記:YT)
(写真をクリックするとスライドショーで見ることができます)
7.モンテ・ローザ(Monte Rosa) 8月26日(金)~ 27日(土) 快晴
モンテ・ローザの地図
8月26日
今回は一泊二日でイタリア側からのモンテ・ローザ登頂だ。モンテ・ローザは標高4637m、スイスの最高峰で、ヨーロッパアルプス第2の高峰。
シャモニーの宿舎を8:40ごろ出発し、モンブラントンネルを抜けイタリアに入り約3時間をかけモンテローザスキー場(スタファル)に着いたのが12:00ごろ。
最初のケーブルは乗れたが、そこから時間がかかった。ケーブルを2回乗り継ぎ、最終地から小屋まで徒歩2時間位で着く予定だったが、そこはイタリアであった。お昼時間は日本では考えられない長さがあり(14:30まで昼休みでケーブルはストップしたままだった)、ここで昼食を食べ出発するのかなあと思っていてもなかなかガイドは腰を上げない。なんで行かないのかなと頭のなかでは?マークがたくさんあったが、ケーブルの時間割を見て自分なりに納得した。14:30が午後の始発になっていたのだ。
そうこうしているうちにケーブルの最終地に15:00ごろに到着。その時に今日泊まる山小屋が山の上の方にかすかに見えた。ここから雪あり岩ありのミックスの登山道が続いていた。ガイドの指示でアイゼンを着け雪山をサクサクと登っていった。
今いる所から上を見るとどう見ても登れそうな感じがしなかったが、登るにつれて登山道が現れてきた。2時間位歩いたところで今日泊まる小屋(グニフェッティ小屋)が姿を現してきた。着いたのが18:00ごろだったかなあ。時間は定かではない。小屋の標高が3647mで富士山の8合目ぐらいと同じような所だった。
夕食はイタリアンのちょっとしたコースで、ワインも飲みそして腹いっぱい食べ明日の鋭気を養うために早々と睡眠をとることにした。
8月27日
今朝も素晴らしい登山日和になりそうで、私は眠い眼をこすりながら3:30ごろ布団から起き上がり身支度をして朝食を4:30に食べ、5:00ごろ小屋の入り口で待機していた。
出発が5:20でここからは夏における冬山体験だった。アイゼンを履き小高い丘を登り切ったと思うと又次の丘が現れ、あの丘にいけば少しは休めるかな、なんて甘い考えでいるとそこは休まずに通過してしまった。
そのうちに私の初体験になる4,000m超の領域に入っていってさすがに呼吸が荒くなり、大袈裟にいうと100m上がって肩で呼吸を整えて、そしてまた歩く繰り返しをやりながら登って行った。
中間ぐらいでマッターホルンが見えて、今3人が登っているのかなあという思いを描きながら私はこのモンテローザの頂上に行くのだと決め、サクサクと雪山をのぼって行った。
10:30ごろ頂上直下にどうにかへばりながら着くことができた。小高い平原に2つのコブがあり、少し下の方にも山が2つあって4つ合わせてモンテローザと言うそうだ。
その内の平原の方を私たちは攻略した。30度ぐらいの傾斜があり一般的に蟻の刃渡みたいに両側がスパッーと切れ落ちている坂をよじ登って頂上に登る事ができた。
登頂時刻は11:33、モンテローザ 4637m、よくぞ登れたなあ。
もう一つの山頂にも登りそこが12:20ぐらいだった。
マルゲリータ小屋で休憩し、13:00ごろ下山を開始した。(記:ES)
8.インデックス(Index)の隣の岩場でマルチピッチ 8月28日(日) 快晴
連日の快晴でマッターホルン、モンテ・ローザに予定通り登頂できたため、2日間の予備日が空いたので、シャモニーでマルチピッチをすることになった。
初日と同じように、車、ロープウェイ、リフトを乗りついでインデックスに到着。ガイドは4名。それぞれのペアに分かれてクライミング開始。
YTとYIさんは雪渓を越えて右側の大きな岩場に取り付く。昨日クライミングレベルを聞かれていたので難しいルートではなかった。このルートはガイドたちも初めてとのこと。頂上でトポ図を見ている人がいたので覗いたら、20、30ルートはありそうだった。7ピッチで終了。
中年の女性たちがタンクトップと短パンでガイドについてクライミングをしていた。シャモニーでは岩場まで手軽に行けるので、クライミングは気軽なスポーツのようだ。
終了後、シャモニーのバーガー屋さんでガイドたちとボリューミィなハンバーガーとビールでランチをした。彼らは日本人のクライアントが初めてとのことで、スマホの辞書で私たち相手に日本語を勉強していた。英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語をマスターしているので習得は早い。
今回は計画段階でKKさん、
9.セルヴォーズ(Servos)でのゲレンデクライミング 8月29日(月) 快晴
シャモニーのセンターより車で20分、道路脇に片岩の絶壁フェース。駐車場から0分の立地、3ピッチ程度だが、上部にはオーバーハングがあり、人気の様子。平日だがバカンスシーズン最後の週とあって混雑していた。
3班に分かれてクライミング。登るだけでなく、教えて欲しいと頼んでおいたので要所要所、説明してくれた。ガイド1人に対して2人で登る、リードはガイド、難易度に合わせ、二人同時、時間差、又は一人づつと登った。ガバがあるのでつかみやすいが、次が遠いので手の力を要するスポーツクライミング的だ。ガイドが毎日のように鍛えてると言っている。
ガイドはフォーティーンのクラックフェースを登る強者、平山ユージと一緒に登ったと言っている。足が軽やかで、登っている姿を見ているのも楽しい。おまけに足の爪が痛いとかで、普通の運動靴だ。
5.10のフェースを登る事になった、核心部を、“いいか、足はここで、手はここ”と指導しながら登ってくれた。私の番だ、核心部を抜け次の一手を取ったら、ガイドが、“いいぞ、ナイス!“と言ってくれたら、一瞬気が抜け、滑落!
ピーターパン状態になる。”足で岩を蹴るんだ!“と言われても、岩には近ずけない、上からロープを降ろしてもらい、岩に戻れた!私の実力はこんなもんです、すみません。
帰りに、ガイド行きつけの店でランチ。おいしい!クライミングの後のサンドウィッチとビール、おまけに快晴!何とも楽しい日々でした。(記:MI)
10.おわりに
マッターホルン全員挑戦とはならず、残念でした。もう少し交渉すればよかったかなと悔いが残るが、通常は当日より倍以上の人で途中撤退も難しいとかでガイドの意見を聞いたが、大変少ない人数の日だったので全員挑戦も出来た感じだ。(記:MI)
今回依頼した Mountain Spirits Guide の Matterhorn 6-Day Course では、最初の3日間のテスト山行は1対2のガイド、後半は1対1のガイドで、3日間のうち2日間はマッターホルン登頂にあてて1日は予備日というスケジュールだった。しかし降雪や天候不良のことを考えて2日間をプラスし、8日間のスケジュールに変更した。マッターホルンに登頂できなかった場合や、首尾よく登頂できたあとの山行はモンブラン登頂を希望したが、どうしてもグーテ小屋の予約が取れないため、第2希望のモンテ・ローザ登頂になった。(グーテ小屋は2013年に改築された宇宙船のような小屋で、人気でなかなか予約できないそうだ。)
マッターホルン登頂の記録を見ると、ヘルンリ小屋から山頂まで4時間から6時間で登っている記録が多いため、当初目標時間は5時間と想定して訓練していたが、直前にガイドに確認したところヘルンリ小屋からソルベイ小屋まで2時間、そこから山頂まで2時間で、これより遅いとそこで撤退するという回答であった。このような厳しい基準を持っているガイド組織でなければ、全員マッターホルン登頂にチャレンジできたのではないかと思う。
ただし、私自身はダン・デュ・ジュアン登頂後の下りで思わぬミスにより怪我をしてしまい、痛恨のリタイアになってしまった。歩くのが困難なためヘリコプターでのレスキューを依頼してイタリアのアオスタまで運ばれたが、軽い腰椎圧迫骨折で全治1ヶ月の診断。迎えに来てくれたガイドの車でシャモニーに戻った。ヘリコプターに同乗して面倒をみてくれたMIさんには感謝しています。
4013mの頂上では頭痛もなく食欲もあったので気が付かなかったが、ヘリに乗ってから血中酸素濃度を測定後、すぐに酸素吸入をされたことで初めて高山病(意識障害)の症状が出ていたことに気がついた次第だ。アレルギー体質のため高山病の特効薬ダイアモックスを飲めないことが出発前に判明していて多少心配していたが、この不安が的中してしまった。
富士山に7回登るなどの高所訓練をしてきただけに途中リタイアは大変残念だが、ゆっくりなら歩ける程度の怪我ですんでよかった。現地で加入したヘリコプター・レスキュー保険も役立った。万一の備えとしてかけた海外旅行保険の運動割増特約(アイゼン・ピッケル・ザイルを使う危険なスポーツでも補償)を適用して帰国便を手配し、8月26日の便で皆様より一足先に帰国した。
最後に、英語でのコミュニケーションについて一言。安全がかかっ
11.(参考)国内での事前トレーニング
他の山行に多忙なメンバーゆえに訓練は自由参加とし、以下の訓練は筆者が参加した山行である。
11月-2回、鷹取、トップロープで重登山靴+アイゼンで登りとクライムダウンの練習
1月-赤岳、文三郎尾根往復、岩と雪のミックスを安全に迅速に登り、スムースに下る練習
-丹沢、塔ノ岳、頂上迄2時間27分
2月-美濃戸口、八ヶ岳山荘で仮眠し、ロングコースを地蔵尾根~展望荘で撤退、地蔵下る
-2回、丹沢、塔ノ岳、頂上迄2時間20分/2時間40分
3月-中野茶屋より富士山五合目迄
4月-馬返しより富士山七合目、撤退
5月-自宅より鎌倉天園~北鎌倉往復、スロージョギングで
-2回、富士山吉田口より、東洋館、強風のため撤退、九合目で撤退
-北穂東稜計画、悪天候で中止、小川山クライミングに変更、強風のため撤退
-丹沢、塔ノ岳、頂上迄2時間27分
6月-富士山富士宮口より、3時間17分
-富士山吉田口より、3時間33分
7月-2回、富士山吉田口より、3時間35分/3時間45分
8月-2回、富士山吉田口より、3時間37分/3時間31分
他に、2日に1回、45分程度のジョギング、下山の不得意対策に膝と腿の後ろの筋肉を鍛えるエクササイズを行う。雪が少ないのでアイゼン訓練が充分でなかったが、結果的にはヨーロッパでも雪が少なかったので問題はなかった。今後の提案として、3千メートルより上での迅速で休みの少ない歩行が鍵と思える、ゆえに、富士山訓練は頂上迄行き、3千メートルの位置まで下山し、又頂上迄何回か往復するのが一番よいと考える。吉田口を3時間半は必須。
今回の企画に伴い盟友、YK氏、TS氏からの体験談及びサポートに関して、また訓練山行に同行いただいたTS氏、大NN氏、NN氏、TD氏にはお世話になりありがとうございました。(記:MI)