剱岳 八ツ峰Ⅵ峰A・Cフェース

Ⅱ峰懸垂下降

山行情報

日時:2023/08/03 ~ 2023/08/06 天候:午前中晴れ、午後から曇り時々にわか雨
ランク:D-D-9:00 参加:5名
山行担当:CL3420 SL3748
記録担当:文責:3748, 3420 写真:3420, 3748, 3418, 3537, 3634

コースタイム

1日目
室堂8:40…15:50真砂沢ロッジ(泊)
2日目
真砂沢ロッジ4:45…5:40長次郎谷出合…6:00クレバス連続地帯(敗退決断)…6:15長次郎谷出合…7:00真砂沢ロッジ(テント撤収)…8:10真砂沢ロッジ …12:10剱沢キャンプ場(泊)
3日目(途中下山組)
剱沢キャンプ場5:30…10:00室堂
3日目(居残り・源次郎尾根アタック組)
剱沢キャンプ場4:00…5:00源次郎尾根取り付き…9:00Ⅱ峰9:30…11:00劔山頂11:30…15:00剣沢キャンプ場(泊)
4日目
剱沢キャンプ場7:00…11:00みくりが池温泉12:10…12:20室堂

山行記

1日目

前日夜にバスタ新宿から夜行バスで出発し、5時10分に富山駅前に着いた。バスは3列シートでリクライニングが深くフットレストもあり、けっこう身体を休めることができ、体調は万全だ。 

富山電鉄と立山アルペンルートを乗り継ぎ、登山口の室堂に到着。ここでテント・食料等の共同装備を分担し直すと私のザック重量は約22Kgになった。参加者の女性達も20Kg前後を担ぐ。泊地の真砂沢テント場までは距離8.6㎞、登高658m、下降1,325mの道のりだが、本番の明日に疲れを残さないように歩くのが肝心だ。しかし、SLとして先頭に立った私はたびたび歩くのが早すぎとの注意を受けてしまった。自分ではペースを抑えているつもりでも、初めての劔岳バリエーションルートに心が逸っていたようだ。 

アイゼンを着けて剱沢雪渓を下っていると、雪渓を上がってくる2人の登山者に出会い、CLが話を聞くと八ツ峰峰のAフェースに行ってきたとのこと。彼らは大学山岳部員で、若くて体力がありそうだが、長次郎谷の雪渓が溶けて、数か所がクレバスで分断されているなど、相当状況が悪いという。Aフェース取り付き点までのアプローチで苦労して、長次郎谷出合からAフェース終了点までの往復で9時間かかったようだ。体力差・人数差を考えると、我々では確実に12時間以上はかかりそうだ。実際に長次郎谷出合から雪渓を見ると、数か所がクレバスで分断されていて、何回も剱沢雪渓に来たことのあるCLも、初めて見る雪渓の大幅縮退に驚いていた。前途に暗雲が立ち込める思いだ。 

午後から雲が出てきたが、何とか雨に降られる前に真砂沢テント場につきテントを設営した。夕食はCLお手製の豚肉のみそ漬けとナス・ピーマンの炒め物、麩とみょうがの味噌汁。テント場での本格料理に疲れや不安が癒され、山行での食の重要性を再認識した。 



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2日目

アプローチの状態が悪いのでAフェースの2ルートを登る計画を1ルートに絞り、計画より約1時間遅くテント場を出発した。長次郎谷出合からは、左岸のがれ場をアイゼンを履いたまま遡上する。15分ほど歩いて何か所か分裂し崩落しそうな雪渓にCLが取り付き先行するが、後続は留まり、CLの様子を見守る。 CLが雪渓上を50mほど先行した時点で、CLからサインが出され、敗退が決定した。 

雪渓の崩落リスクがあることと、崩落リスクを回避したとしても雪渓の分断箇所を高巻くにはロープを使ったクライミングが必要で、到底、日没前に長次郎谷出合まで戻ってくるのは不可能との理由だ。参加メンバー全員が悔しそうではあるが、敗退決定に安堵した様子も見える。 

明日予定のCフェース登攀も無理であるため、明日は源次郎尾根を登ることにし、真砂沢テント場を撤収、劔沢キャンプ場でテントを設営した。しばらくすると「剱岳・源次郎尾根と八ツ峰Ⅵ峰 」の会山行パーティも剱沢キャンプ場にやって来て、私達がいることに驚いていた。また、個人山行で来ていた会員にも声をかけられ、仲間と出会えた喜びに少し落ち込んだ気分が癒された。 



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3日目

【途中下山組】

2時に起床しご飯を炊き始めたが、メンバー1名が顔を出さないので不思議に思っていると、体調が悪く朝食は食べられないとのこと。悪寒がするとのことで、メンバー(看護師)が薬を処方して休ませた。その間に朝食を摂りながら対応を協議し、体調不良メンバーとSLの私が下山し、CL以下3名で山行を続行することに決まった。体調不良者の体力が自力下山に耐えられそうであることと、続行組のメンバー2名はアルパイン経験のあるリーダーでSLの代行は問題ないとの判断だ。

(以下は下山組の記述 )

体調不良者のザックを軽くするために、テント・調理器具等の共同装備の分担は無しとし、なおかつ個人装備のロープとクライミングギア約4Kgを私が負担した。それでも体調不良者のザックは12Kgぐらいだ。5時30分にテント場を発ち、標準時間3時間半のコースを5時間半かけて下山するつもりであったが、実際には4時間半で下山口(室堂)に着き、無事下山することができた。 私にとって今回の山行は敗退の体験となってしまったが、CLの不測事態発生時の情報収集の仕方・判断の仕方を実体験として間近に見ることができて、すんなり成功してしまう山行よりも有意義であったと思った。 

【山行続行組】

下山組に別れを告げて4時に出発する。 

すがすがしい朝の源次郎尾根に取り付く。4級5mの岩場からやさしい岩場が50m続き、その後木登りが100m続くと、Ⅰ峰が高く見えてくる。岩稜を登り、Ⅰ峰から下ってⅡ峰に登り返すと懸垂下降地点に着く。以前は鉄柱に残置された何十本の捨て縄にロープセットしていたが、右手に打たれた真新しいハンガーボルトが2本あり、これを使う。50m2本で下りたが、50m1本の場合は、最後5mが優しいクライムダウンになるそうだ。 

剱山頂でゆっくりして下山。年寄りなので時間がかかり3時間半でテント場に戻る。 



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4日目

仲間のパーティが別山北稜を登るのをゆっくり眺めながら準備をし、7時に出発。みくりが池温泉に入る。5、6年前は湯舟が今の半分くらいで、もう少し風情があったような気がするが、大人数パーティの登山客対応で大きくしたのだろうか。

外でソフトクリームを食べ、食堂でカルピスを飲む人にうまそーだと騒いでいたら、にこにこ笑って窓を開けて飲ませてくれた。室堂でそばを食べ、あずさで熱中症危険地域に帰った。  

CL追記】 

長次郎雪渓は10回くらいになるが、あれほどの崩落は初めてで、今年の異常さを知ることになった。

3日目の朝は、メンバー1人が具合が悪いとのことだった。テントは別だったが顔色を見るでもなく、下山組と源次郎組に分けてしまった。本来であれば顔色を見てリーダー判断となるのだが、この日は同じテントの看護師に様子を聞いて判断した。

下山路は、昭文社コースタイムで3時間余り、丹沢大倉尾根くらいの人通りがあり小屋がいくつもあり、残り3人のうちのひとりが源次郎尾根未経験だったこともあって、パーティを分けることになったが、人通りが少ない、下山路が長い、小屋が無い、もう少し症状が重い、などであったら、全員で下山のところだった。せっかく来たのにということと、安全な下山との狭間で、事故にならない判断の難しさを思った。 



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